フセイン・サジワニとDAMACについて
『財政難のロベルト・カヴァリをドバイの大富豪が195億円で買収(2019.7.17)』
こんな記事が出てきた。
読んでみれば、ドバイの不動産デベロッパー、DAMAC Propertiesのフセイン・サジワニ氏のことであった。
せっかくなので、これを機に、彼について紹介したい。
フセイン・サジワニ氏は、「FORBES(フォーブス)」誌による“世界の富豪ランキング”2018年版で、アラブ諸国 第4位にランクインしている。
フセイン・サジワニ氏の純資産は推定3,700億円。
(ニトリ社長以上セブン&アイ社長以下くらい)
DAMAC Propertiesの
年商は75億AED、約2,250億円。(森ビルくらい)
純利益は2,8億AED、約810億円。
アラブ諸国において4番目に大きい上場企業で、匹敵するデベロッパーはEMAARしか存在しない。
(EMAAR:ブルジュ・ハリファのデベロッパー)
そんなドバイを代表する大企業の来し方を紹介してみよう。
生い立ち
1952年ドバイ生まれ。
UAEがイギリスから独立するよりずっと前だ。(独立は1971年)
父親のアリー・サジワニは、ドバイのデイラ地区で小さな商店を営んでいた。
デイラ地区とは、ドバイ旧市街にある問屋街で、東京でいうと御徒町のような地区。
ドバイのデイラ地区(現在)
ここで外国から商品を輸入し、ドバイや近隣諸国へ輸出する、デイラ地区の典型的な商売をしていた。
父・アリーは中国からの仕入れをしていた。
当時のドバイはただの荒野の端の港町。交流のある外国といえば、せいぜいインド。中国まで貿易のために足を伸ばした人が、当時どれほどいただろう。
小さい商いながら、父アリーはフセインの商売の師匠であった。
アメリカ留学
イラクのバクダッドへ留学した後、シアトルへ渡り、その後ワシントン大学へ入学(1978)。
フセイン・サジワニは、アメリカで奨学金を得た最初のUAE人留学生の1人でもある。
彼はアメリカ生活を振り返ってこう語る。
当時のアメリカとドバイの違いを想像してみろ。
当時、ドバイで最大のショップは185平米のJashanmalだった。
しかしアメリカには9,000平米のウォルマートがあった。
ものすごい衝撃だった。
私:(その頃からJashanmalあったんだ…)
DAMAC創業期
米国留学からUAEへ帰国した後は、アブダビの石油会社ADNOCなどで、束の間のサラリーマン生活を送る。
1996年
初めての物件を持った。
デイラ地区の3ツ星ホテル。
これが不動産デベロッパーとしてのDAMACの歴史の始まりだ。
2002年
UAEが外国人に不動産の購入(フリーホールド)を認める法律が施行された。
これを機に彼はDAMAC Propertiesを設立する。
最初のホテルから6年。
この時、彼の保有する物件は10棟となっていた。
2004年
DAMAC Park Towersを、ドバイの金融特区DIFCに建築。
ガラス張りの丸いタワーが2つ並ぶ、とても特徴的なスタイルで、ドバイのアイコニックな存在になる。
当時は世界で最も高い建物の1つだった。
(現在、日系美容院ナデシコが入居しているビル)
2005年
エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、レバノンなど中東各国に進出。
2009年
ドバイショック
2008年、ドバイの不動産バブルは崩壊し、不動産価格は50%下落。翌2009年のいわゆるドバイショックへと突入する。彼は当時、ドバイ最大の不動産デベロッパーとしてドバイショックと対峙することになった。
自らのビジネスマン人生の中で「2008年10月から2009年4月までの、あの6カ月ほど、苦しい時期はなかった」と語る。
2013年
株式公開。
中東の企業として初めてロンドン証券市場に上場。
2015年
ドバイ証券市場に上場。
Dubai Financial Market(現在)
創業資金
今でこそ「大富豪」なんて呼ばれる彼だが、元々はデイラ地区の商人の息子。
創業資金はどうしたのか、というと。
1997-2002年の間、株式投資で成功して資金を調達。
当時、不動産収入の5倍の収入を株式投資から得ていて、その資金を不動産に注入した。
これにより、DAMACは無借金経営を貫いた。
彼が投資していたのは、主に、バハレーンやオマーンの企業だったという。
(かつてバハレーンは、中東において、今のドバイのようなポジショニング、湾岸諸国最大の経済都市だった)
トランプ家との関係
2017年
トランプが大統領に就任したことで、フセイン・サジワニは一躍時の人となる。
なぜならアメリカとドバイの不動産王同士、強いつながりがあるからだ。
米国大統領と強固な繋がりを持つエミラティとして、連日ドバイのマスコミがフセイン・サジワニを取り上げた。
ドバイには、DAMACが手がけたトランプ・ゴルフコースやトランプ・エステート(住宅地)が多数ある。
尚「トランプ氏とはあくまでビジネス上のパートナーシップであって、政治方針とは何ら関係がない」と当人は語る。
DAMACが売り出すTRUMPブランドの高級住宅地「DAMAC HILLS」の広告。
売り込み文句は「Home of the TRUMP」だ。
サジワニ家とトランプ家は、家族ぐるみでのおつきあいがある。
2018年フセイン・サジワニの娘が結婚するとき、トランプ大統領をご招待したが、断られて残念がっていた。
それでも、のちにインスタグラムを拝見するに、トランプ氏の長男が参列したようである。
ちなみにその結婚式には、ドバイ側からは、かのハムダン皇太子が参列している。
尚、彼はトランプ・ブランドだけでなく、ヴェルサーチ、フェンディ、カヴァリ、ブガッティなどとパートナーシップを持っている。
今回買収することになったのは、その中のカヴァリ。
パートナーシップから、オーナーシップへ乗り出した。
カヴァリ・・・といえばファッションブランドであるが、ドバイでは同時にカヴァリ・クラブが思い浮かぶ。
隠キャお断り的なギラギラ夜遊びスポットである。
(↑要するに私は行けない)
あそこの権限もサジワニ氏に移るのだろうか?
ドバイ・メトロの「DAMAC駅」
ひとつだけ、DAMACに文句を言いたいことがある。
メトロの駅名を購入して、DAMAC駅を作っちゃったことだ。
これは元々、ドバイ・マリーナ駅。
観光客に、「すみません、マリーナ駅に行きたいんですが、路線図に見当たらなくて…」
と何度聞かれたことか!
「あ、名前が変わりまして、DAMAC駅ですよ」
10回じゃ足りない回数、聞かれている。
まったく、もう。
彼のルーツは?
ここからは私の勝手な推察だが、
(信用しないでほしい)
ファミリーのルーツはイラン系だと思う。
少なくともペルシャ湾を挟んだ対岸側だ。
父:アリー
本人:フセイン
息子:アリー、アッバース
この名前のバリエーションからシーア派の系列だろうなぁと思うし、なぜか彼はイラン系ビジネスパーソンの界隈と
親和性がやたら高い。
だから勝手にそう思っている。
(知らんけど。)
DAMAC住んでみる?
トランプ・ブランドで知られるように、DAMACは高級住宅地やゴルフコースを開発しているが、(Damac Hills、Aykon Cityなど)
手頃な価格の小さなワンルームマンションも、実はかな〜りもっている。
Business BayのDAMAC Maison the Vogue、IMPZのLakeside Apartmentなど。
前述のDAMAC Park Towersなんかも、単身者にはちょうどいい物件だったりする。
高級ヴィラから、若造の一人暮らし物件まで手広く扱っているようだ。
ドバイ・ドリームを追って
デイラ地区のいち商人の息子が、
一代にして
ドバイの不動産王へーーー。
いかにドバイ生まれとはいえ、
財閥一家の生まれでもなんでもない、
下町の生まれからここに至る。
これこそドバイ・ドリームだろう。
現在は誰でも知ってる超高級住宅地の1丁目、
みたいなところにお住まいである。
豪邸と呼ぶに相応しい家には、
ロールスロイスが2台並ぶ。
こんなドバイ・ドリームが実話として、
しかもリアルタイムで届くのが、
ドバイという街の面白いところである。
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