アーシューラーとは、シーア派の人々が信奉するイマーム・ホセインの死を悼む行事である、ということはこれまで述べてきた通りだ。
期間中はさまざまな催し物があるが、今回は、宗教施設内で行われる儀式について紹介したい。
紹介していいのか若干不安だが。
宗教施設「ホセイニーイェ」の中で

貴重な動画をどうぞ
相変わらずのスマホ画質ですみません。
フロアをぐるぐる回りながら、胸を叩く(スィーネ・ザニー)をしている様子が分かる。
セリフに合わせ、ゆっくり叩いたり、時に激しく強く叩いたり。
やがて感情が高まってくると、館内の照明が落とされ、窓と暗幕が閉められる。
フロアは一気に暗くなる。
また、通気性を失った空間は、どんどん温度が高くなる。
暗い。
暑い。
熱気に満ち満ちた環境となっていく。
はじめ、メロディーのようだったセリフは徐々に叫びへと変わる。
激しく強く、叫ばれるものになる。
そして最後に動き出したのが、おみこしのような物体。
これはホセインの棺桶を模している。
これを担いでフロア内を回る。
掛け声、叫び声がホールの中に響き渡る。
どれが声でどれが反響なのかもう分からない。
館内の温度はどんどん上がる。
あぁ、ホセインは殺された
あぁ、ホセインは殺されたーー
熱狂、とはこのことだった。
人々は何と叫んでる?
人々は何を叫んでいるのか。
以下の部分が聞き取りやすいかと思うのでピックアップした。
メロディーのような部分
カルバラー、アーマデ..
訳)カルバラーへやって来た。
短く繰り返し叫んでいる部分
ヤー!ホセイン、コシュテ ショッド!
訳)あぁ!ホセインは殺された!
このあたりが聞き取れるだろう。
そう、カルバラーにて、シーア派のイマーム・ホセインがスンナ派軍に殺害されてしまった「カルバラーの悲劇」について叫んでいる。
ホセインが殺害されたカルバラーの悲劇について詳しくはこちら。
その頃、女性フロアでは
(2階の回廊から、ホールを見下ろす女性たち)
先の動画は、上層階から撮影しているのが分かるだろう。
実は、この施設は2階建になっており、行事をやるのは地上階のホール。
2階部分は大きく吹き抜けになっており、それをぐるりと回廊が囲み、手すりの隙間からホールを見下ろせるようになっている。
ちょうど日本の学校の体育館のようなつくりだ。
1階の後方部分と、この2階の回廊が、女性と子供のフロアとなっており、女性たちはそこから行事の様子を見守っている。
手すりにしがみ付いて涙を流しながら見ている女性。
男性陣と声を合わせセリフを語る女性。
男性陣の掛け声に合わせて、自らも小さくスィーネザニー(胸叩き)をする女性。
私のようにスマホで撮影する女性(夫や父親の勇姿を捉えているのだろう)。
一方その背後では、
ちびっこの面倒を見て「コラ!走り回らないの!」と叱る女性。
座り込んで知り合いとお喋りに興じる女性。
配られた炊き出しを食べる女性。
なかなか色々であった。
ふと、自分の田舎の法事の最中の台所を強烈に思い出した。
男たちが儀式の前線に参加している間、女たちは喪服を着つつも舞台裏から炊事や生活の運営を担い続ける、この感じ。
しばらく手すりにしがみ付いて見学していた私も、ちょっと後ろに下がって、座ってみることにした。
こんな「明らかに異教徒」の人間が、スマホを構えていて不快だったんじゃなかろうか、などと心配していたが、瞬時にそれは杞憂に終わる。
この場があまりにもディープすぎるため、逆に「あなた、よくこんな行事までご存知で…」という方向性のリアクションを受けたのだ。
(配られた炊き出し)
「どこから来たの?」
私「日本人です、ドバイに住んでます」
「よく来たわねぇ」
「もっと近くに座って」
「アーシュラーやってるって分かって来たの?それとも偶然?」
私「アーシュラーがどうしても見たくて…」
「あんれまー、そんな日本人がいるのねぇ」
「さぁ食べて食べて」
「ちょっと!お弁当もう1個!!」
「この子にお水まわしてー」
「お茶もあるわよー」
「今年の炊き出しは肉がないのよ、不景気なのよ」
「あら奥さん、うちの町内会のは肉入りよ?」
イランの母ちゃんたちは、終始こんな調子である。
この間も、下のフロアからは男たちの掛け声が響き続けている。
あぁ、ホセインは殺された
あぁ、ホセインは殺されたーー
歓迎してくれたのは彼女たちのみならず。
終了後に、大満足してホクホク顔でホセイニーイェの建物から出て行ったら、この施設のトップであるイスラーム法学者の取材をしに来ていたIRIBラジオのインタビューにとっ捕まった。
珍しかったらしい。
まさかこの建物から、平べったい顔した日本人がホクホク出てくるとは思っていなかったのだろう。
(そりゃそうだ)
こうして大充実のアーシューラー体験を終えた。
【アーシュラー関連】




【オススメ参考図書】
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シーア派の中でも、ホセインの殉教に関することや、その系譜(十二イマーム派)については、以下の本が詳しく、かつ易しい。
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